自分の失敗、不甲斐なさに落ち込んだ時はご飯を作って食べる。
それも、和食がいい。日本人なら母親のお腹にいる時から何らかの形で注ぎ込まれているであろう、出汁や醤油に味噌。よく見るDNAのあの中に組み込まれていそうである。
いや、日本人でなくとも和食というものは気持ちを平らに均してくれるんじゃないか、というのは買い被り過ぎだろうか。
和食といっても例えば筑前煮とか海老しんじょとか、手の込んだのでないものにしたい。
なにしろこちらは落ち込んでいる。ベッドで横になり、見てもいないテレビの音を聞きながら携帯で興味の無いネットニュースを開きがちな心模様である。
腹は減ったけど、アイスでも食べようか、あ、ビール一本あったっけ。
そのままの欲望に身を任せたくもなるが、自分の失態で落ち込んでいる手前、なんとなく格好が悪い。
だから簡単なものをこしらえる。冷たい水で米を研ぐ感触や、炊き上がったご飯から上る湯気が顔に触れるだけでも少しずつ気分は持ち直してくる。
お味噌汁も良いし、玉葱を入れたかき玉汁もお勧めしたい。
こんな日は砂糖を少し多めにして甘めの出汁にする。そして大事な黄色い溶き卵をほんわり。飲み込むと胸の中を甘いお汁が通り抜ける。
それから夏は良い。豆腐は冷奴ですぐ食べられるし、茄子や万願寺などなど夏野菜はグリルで焼いて鰹節に醤油であっという間だ。薬味も豊富で安い。
お漬物があればポリポリ、パリパリする音が頭の中に居座る暗いのをどんどん隅に追いやり、梅干しはその酸っぱさで更にそいつを小さくしてくれる。
そうしてご飯をおかわりして食べ終わる頃にはだいぶ気分が明るくなっている。
そして洗い物は明日に回す。
面倒くさいからじゃなく、気分が塞いでいる時に効くのは和食をこしらえて食べる事ともう一つ、早く寝る事だからだ。
それでもお風呂でシャンプーなぞしている間に雨雲が成長するかのようにまたのそのそと現れるが、大丈夫。しっかり食べた自分はさっきより元気だから、そいつの侵略を止めることができる。
そして次の日の朝を平常に迎える。
食べて早く寝るなんて馬鹿みたいだが、ある程度の暗い気持ちにはこれで十分対処できる。
私にとってモンダイなのは、落ち込んだ後、ちゃんとしたはずのその「反省」を次に生かしきれているかという事なのだ。
馬鹿みたいと言ったが本当に大馬鹿なのでここが課題なのである。こんな歳でこんな様、とても恥ずかしい。
ごちそうさまでした。の意味を初めて考えた。
食べられる事は生きる事。自分の血肉に加え、心まで助けてくれる、なんとありがたい事なのか。
生命をもらって生きているんだから、それに見合う自分にならなきゃいけない。
頑張れるなら頑張らなくちゃ。