久しぶりの赤ワインがそろそろと喉元からみぞおちへと降りて行った。
その遠慮がちな様子に少し苛立つ。上質で美味しいのだからビールみたいに堂々と真ん中歩きなさいよ。
この頃の私は鬱々として、なかなか割れない風船みたいに膨らみ続けている。それに加え遠いところに存在しているらしい台風の影響で目の奥から頭全体が海の底に沈み、光も音も濁ったのが届き、ますます気分が落ちている。
読めない天気の隙間に現れた曇りの時間帯に、押し問答の末自分を外に引っ張り出した。少し離れた場所にある市場の中にあるレストランへ向かうのだ。バスに乗る事を含め、気分転換の為に時々そこへ行っている。ただ特に腹も空いてなければ、ましてや酒など欲する気分でもなかった。だが席につきメニューを眺めたら、なんとなく自分を騙せそうな気がしてボロネーゼと赤ワインを注文した。
黙々と食べ続け、飲み慣れないブラックのホットコーヒーを少し残して席を立った。美味しかった。荒めに刻まれた肉と野菜、ハーブの香りが完璧な茹で加減のペンネとよく絡み、ワインが進んだ。口に入れ噛んで飲み込む。どこを見ていればいいかわからない。
行きとは違うバス停へと川沿いを歩く。いつの間にか空が青い。右に流れる小川はあまり整備されておらず別段綺麗でもないが、草も花も自由にやっていて独立した面持ちで各々立っていた。青、紫、ピンクと見事に入り混じった紫陽花が綺麗で写真を撮る。青空も画角に入れてみる。
雨に濡れていても、強い太陽の下でもいつだって植物は最大限に美しい。中途半端なんてない。泣きたい。
程なくしてバスに乗り込むがあっと言う間に最寄りへ着いてしまった。もっと揺られていたかった。考え事周遊バスがあればいいのに。
自転車に乗り換える。午前中を支配していた重い湿気が消え去っている。自分の肌とつるりとしたシャツの間を夏の子供みたいな風が絶えず通り抜けて裾をはためかせ音を鳴らす。
綺麗な戸建てのベランダに干されている洗濯物達の「今日の私達いい感じ☆」な感じ、が妙にしんどい。
結局、海の底から空らしいものを見上げているままの私で今日も終えるようだ。