そろそろだろう、とどこか遠くで感じ始めた頃に携帯からアラームが鳴る。
すぐさまその音を止めると、ニュースサイトを開き飛び起きなければならない出来事が無いのを確認する。そんな習慣ができてしまった。
この頃は前の晩にエアコンのタイマーを設定する必要もなくなってきた。スリッパを履き、ガウンを羽織って立ち上がる。
その音で犬も自分のベッドから起き出しハーンとかワーンとか言いながらあくびをして体を伸ばす。
おはよう。
ラジオをつける。洋楽かイギリス人DJの話す英語が聞こえてくる。
ケトルに残った水を捨て、新しい水を注ぎ火にかける。
前にネットの掲示板で『妖怪退治やってるけど質問ある?』を読んでいたら前の晩に飲んだコップに残ってるのは夜中に妖怪が口をつけているからやめとけ。と主が言っていたのでそれをアホみたいに守っている。でも夜中に目覚めてトイレに行った時に見るキッチンとかテーブルってなんか怖くないですか。できるだけ見ないようにしていたからその妖怪の話を否定できない自分がいる。
トイレに行く。
水で顔を洗う。
化粧水やらなんだかんだを顔に塗る。一生、朝晩にこれをするのかと思うとげんなりする。
そうこうしているうちに湯が湧き、マグカップに注ぐ。
犬はさっきから床で仰向けになりゴロンゴロン、グネグネ、両前足で顔をゴシゴシしている。
それを見ながら白湯をすする。
着替える。散歩着に着替えているから犬ははしゃぎ、ズボンの裾を甘噛みしたり何にもないベランダを無意味に見に行ったりしてチャカチャカ床を爪で鳴らして落ち着かない。
リードをつけ外に出る。大体私達は川の土手を歩く。
ここに越してきてもうすぐ半年だから季節により変化する風景はいつも、初めて見るものだ。
今は背の高い白い花と黄色い菜花が満開だ。その根本には紫や青の小さいのや、たまにつくし、てんとう虫はあの色だから見つけやすい。たくさんの種の緑の葉が生い茂り、そのどれもが自分の生命を信じ、できうる限るの力で成長し素直にそこにいる。毎日毎日、私はそれは見て驚嘆し溜息を吐く。この世で1番美しいものは野草だとすら思う、本当に。
犬はその上を鼻をくっつけながらどんどん進む。時にわざわざ戻って入念に匂いを嗅ぐ。犬が草花をかき分け歩く姿と音が好きだ。その姿を見るとトトロの猫バスが走るシーンを思い出す。あんな風に木が避けたりしないが、自然と動物は互いを許しているようだ。人間はもう何十年も前からそこに加われない。こうやって少し離れて見させて頂く。
20分程歩いて家に戻る。
犬の足と体を拭いて餌をやる。
トースターを温め、淹れておいたコーヒー冷蔵庫から出し、レンジに入れる。
冷凍庫を開け、パンや肉、ご飯や肉まんが並んでいるのを見てニヤニヤしながら食パンを選ぶ。パンが大層好きな私は2、3種の食パン、それを厚みを変えて切ったものをストックしている。
温まったトースターで焼いている間に化粧を始める。
下地にコンシーラー、ファンデーション。こんな事を何万回もこれからやるのかと思うとげんなりする。
鏡越しにトースターのパンの焼け具合を見ている。美味しく生まれてこれたこのパンを焦がす事などあってはならない。黄色い焦げ目がついてきたらトースターを止め、バターをのせたらまた蓋を閉じる。固まったままのバターは塗りにくいし無理やりやると食パンの表面がボロボロになってしまうからこうしている。
化粧をあらかた済ませたら、ヘアアイロンのスイッチを入れ、やっとテーブルにつく。
10分程だが美味しいパンとコーヒーで一息つく。ラジオからは好きな音楽が聞こえてくる。
食器を流しに下げ、次は髪だ。
多毛と癖により膨らんでいる頭を美容院でやるようにパート分けしてヘアアイロンで伸ばす。問答無用、げんなりする。
また着替えを済ませ、荷物を持ち、犬に肉巻きガムのおやつをあげる。留守番の間、少しでもカミカミして暇を潰せるようにと買った物なのに、私が靴を履いている間にもう食べ終わっている。恐ろしい犬だ。
駅まで自転車で飛ばして5、6分。途中、荒川アンダーザブリッジの山田孝之みたいな黄色い花が咲いている。心拍数を上げながら横目でそれを確かめる。
駐輪場の入口にいるおじさんと挨拶を交わしてできるだけ改札に近い所に自転車を停める。
のど飴を口に放り込んで改札を通り、毎日同じ時間、同じ車両に乗り込む。
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文字に起こすモーニングルーティンは、知らんがな。がより強まる、ということが分かりました。